To Be a Good Company

"インシュアテック"で次代を切り拓く

PROJECT STORY #5

PROFILE

東京海上ホールディングス事業戦略部・デジタル戦略室
General Manager

住 隆幸 Takayuki Sumi

1989年入社。入社後は国内リテール営業に配属。2年間のMBA留学を経て、1997年から商品開発部。その後、ロンドン、東京、バミューダで海外事業再保険業務に携わる。2011年に英国Tokio Millennium Re (UK)のCEO就任。2015年に帰国し、現職。

テクノロジーによる変革と機会の到来。
数百年の歴史の大きな転換点に立ち、グローバルプレイヤーとして、業界の未来を切り拓く。

保険+テクノロジー。保険業界に巻き起こったデジタル化の波はますます速度と勢いを増している。ビッグデータ、AI、IoTなどの新しい技術によって、既存の保険業界のバリューチェーンが形を変え、より人々や企業の潜在的なニーズにあったサービスプラットフォームの構築や、革新的な商品の開発が続々と進んでいる。かつてない業界の大転換点に直面し、東京海上グループが描くビジョンとは? 業界の未来を担うイノベーションへの挑戦がすでに始まっている。

次の100年もクライアントに付加価値の高いソリューションを提供し続ける使命

17世紀に英国ロイズで始まった近代的な保険は、その後、時代の変化とともに出現する新たなリスクに対応し、進化を続けてきた。ところが近年、世界的なデジタル化の波が保険業界にも押し寄せ、とくにここ数年、速度と勢いを増している。このことは、数百年にわたって保険業界が守り続けてきた保険のカタチを変え、大規模な市場の変革を巻き起こす可能性を秘めている。

2015年春、ロンドンのグループ会社Tokio Millennium Re (UK)のCEOを務めていた住に、帰国の指示があった。かつてない規模の市場環境の変化に対し、グループの中長期的成長を見据えたビジョンを早急に策定し、具体的な戦略を立案する必要がある。当時の経営層のその声に従い、住は帰国した。

「ロイズをはじめ、欧州の市場ではすでにテクノロジーと保険が融合した新しい商品やインシュアテックと呼ばれる新しいビジネスモデルの先駆的な取り組みが始まっていたので、経営層のもつ危機感はよく理解できました。私はロンドンを現CEOに引き継いで急いで帰国し、グループの中長期課題と取り組むべき戦略の柱を明確にするプロジェクトを発足しました。その大きな柱のひとつがデジタル戦略です。」

2016年7月、グループ全体の中長期戦略を担う東京海上ホールディングス事業戦略部にデジタル戦略室が発足した。東京海上グループが次の一世紀も、お客様に付加価値のある商品とサービスを提供し続けていくため、グループのデジタル化を統括する司令塔の役割を果たすことが組織のミッションだ。住を含めた専任者2名に加え、グループバリューチェーンの各ステージでデジタル化を推進してきた現場のリーダー20名を指名し、デジタル戦略室がスタートした。

「まず、3つの視点から検討を進めました。一つめは、デジタルを徹底活用すること、二つめは社会や消費者の変化に対応すること、そして、異業種からの参入に備えること。この視点から課題を特定し、優先度をつけていきました。
そこで皆と確認したのは、デジタルはあくまで課題を解決する手段であり、目的ではないということ。我々が実現したいこと、それが最も重要なのです。」

未来の保険業界をリードするグローバルイノベーターとしての挑戦

住らは、すでにバリューチェーンの各ステージにおける課題を特定し、すでに進行している施策に対しても外枠を設け、進むべき方向を定めていった。さらに、課題に対して取り組みが欠けている分野に対しては個別のプロジェクトチームを立ち上げ、推進を促した。

「商品・サービス部門の優先課題は、まず、世の中のニューリスク、ニューマーケットに対する商品開発です。たとえば、サイバーセキュリティリスクやシェアリングビジネスのリスクなどに関する商品開発がこれにあたります。また、クライアントへのサービスのカタチも大きく変わります。我々は従来、自動車事故が起こった時にお支払いというサービスを提供していましたが、事前に事故リスクを軽減する、修理業者を手配する、再発防止をお手伝いするなど、お客様に対する事前、事後のサービスを拡充することは重要なテーマのひとつに挙げています。」

東京海上日動は、2017年4月に業界初の取り組みとして自動車保険の特約でドライブレコーダーを提供するサービスを開始し、高度な事故対応、事故防止支援、安全運転診断等のサービスを開始した。また、2017年12月、業界初となる「シェアリングエコノミーに対応した自動車保険」の販売を開始した。これは、カーシェアリングなどの事業者向けに、サービス利用中の事故に対し、利用者個人の保険に加えて上乗せ補償を行う商品だ。これも業界初の取り組みとして注目を集めた。

「従来、個人向け商品は代理店による対面販売が主軸でしたが、世代によっては対面を好まない人も増えています。時代の変化を受けた顧客接点の多様化、利便性の向上は必至です。Webやチャット、アプリ、SNS、音声デバイスなど、多様な媒体でお客様とのコミュニケーションを増やしています。さらに、お客様へのお支払いやサービスの利便性も格段に向上させなければなりません。」

その一例がご照会対応の改善だ。お客様の自然言語による質問をAIが解釈し、該当する情報を膨大なQ&A集やマニュアルから検索して表示する新しい照会応答システムを開発し、まずは社員向けに試行を行っている。また、損害サービスにおいても、ドローンや遠隔映像配信システムを利用した保険金支払いの迅速化やAIを用いた保険金請求書読み取りシステムの導入を試行している。

さらに、2016年末から手掛けるブロックチェーン技術を活用したスマートコントラクトの実証実験では、外航貨物海上保険の保険証券等の様々なドキュメントをブロックチェーンデータ技術を使い分散型台帳として保存した。さらに、業務効率性、セキュリティー性等の検証を行い、実現性とコスト削減効果についての実証に成功した。また、病院と保険会社の間でやりとりされる診断書や診療情報については、ブロックチェーン技術を活用して関係者でドキュメントを共有しつつ部外者にはプライバシー情報を秘匿する仕組みの検証も行った。

これらの取り組みが先駆的であると社外から評価され、東京海上日動は、Efmaとアクセンチュア共催の「Innovation in Insurance Awards」において、Global Innovator部門銀賞を受賞。また、米国セレント社主催の「セレント・アジア・モデルインシュアラー」では日本の保険会社として初の「モデルインシュアラーオブ・ザ・ イヤー」に選出された。

人や社会の変化に先駆けて
インシュアテックで未来を創る

デジタル戦略室の発足と機を同じくして、東京海上ホールディングスは、米国シリコンバレーに「Tokio Marine America」サンフランシスコ支店を開設した。日系企業の現地拠点の対応とともに、新たなビジネスに関わるリサーチと開発を行う拠点として機能している。

「ここ数年、企業の動きに変化があります。シリコンバレー一帯に進出する日系企業が急激に増えたこともそのひとつ。従来、日本の企業は、日本の研究拠点で技術を固め、それを日本の事業部門が商品化して、商品・サービスを世界に送り出すというやり方でしたが、現在は、シリコンバレーでアイデアを固め、ベースとなる技術を開発し、日本に持ち込み商品化、カスタマイズするという流れが見られます。我々もそれに近いことを始めています。」

サンフランシスコ支店には、デジタル戦略室からもスタッフが派遣されている。自動運転、ゲノムや先端医療、インシュアテック、フィンテックなどに関する情報収集を行うと同時に、シリコンバレーに進出するさまざまな企業が、次の事業展開をどう考えているかのマーケットリサーチを行い、新たな商品・サービスの開発のベースをつくることが彼らのミッションだ。

「"保険は成長産業であり、成熟産業ではない"と言われますが、保険とはそもそもカタチのない商品です。だからこそ、人や社会の変化によって、カタチを変えて寄り添っていく、非常に大きなポテンシャルを有しています。
我々が目指す姿は、新しい商品・サービスを産み出す革新性と社会・消費者の多様な変化に積極的に対応する柔軟性をもち、顧客を深く理解し、快適な顧客体験を提供する会社、かつテクノロジーの活用により効率的なオペレーションを実現していること。そして、これらを実現することによって、今いるお客様、そしてその子世代のお客様とも永遠に接点を持ち続けることが可能となるのです。」

世の中がいかに変化しても、お客様とともに自ら変化し、信頼に応え続ける。時代が変化し、デジタル化、グローバル化が進展したとしても、東京海上グループのミッションは変わることはない。

※仕事内容および所属部署は取材当時のものとなります。