01
トータルな情報提供がカギになる

海外にも拠点を持つ国内自動車メーカーZ社を担当する新人・小野と先輩社員岡崎。Z社の輸出自動車の物流保険を提案することになった。

小野 京子
新入社員(あなた)
岡崎 伸之
入社8年目(あなたの先輩)
小野
「Z社は北米や南米に自前の工場を持っていますよね」
岡崎
「うむ。ただ、北米・南米輸出のトレードタームはFOB条件で到着地の現地保険会社が引き受けていて、何かと保険上のトラブルも多い状態なんだ」
小野
「だったら、CIF条件に変更して当社が日本で保険を引き受け、一貫したサービスが提供できるようにしたいですね。まずは損害発生状況の確認からやってみます」
岡崎
「うちの駐在員にも連絡してその他の情報も集めておけよ。あと、現地のクレーム処理体制の確認も頼むよ。うちの海外ネットワークをフルに使って、万全のクレーム処理体制を作っておきたいからな」
小野
「わかりました」
02
トレーシング・サーベイでアプローチ

Z社がアジアに新しい販路を開拓することになった。
2人は早速、トータルな情報提供でZ社のアジア進出をサポートする仕事にかかる。

岡崎
「新規の商流だから、Z社の販路構築のサポートとなるような提案ができるといいんだが」
小野
「新しいルートですよね。じゃあ、トレーシング・サーベイをかけてみますか?」
岡崎
「そうだな。これまでの港湾情報やロスデータから十分な提案できないこともないが、Z社では経験のない物流ルートだし、コマーシャル損害部の協力も得て徹底的に物流安全サービスを展開してみるか」
小野
「はい!!」

03
港でトレーシングサーベイ・バーチャル体験

小野は蓄積されたデータでトレーシングサーベイのチェックポイントを決めた上で、Z社が輸出車両を運ぶトレーラーに乗り込んで、工場から船積港までの実際の輸送路を調査した。
次は調査対象車両が仕向港に到着する頃を見図って現地に出張し、仕向港から内陸の目的地までの輸送路を同じように調査する予定だ。
君は今、小野の視点でこの行程を眺めている。
君ならどこをチェックして、何を提案する?

リスク発見

1:トレーラーへの積込み作業

列車の上段に注意

列車の上段の端に載せた製品(自動車)は、列車中央部よりも揺れが激しく、傷ついた物が多かった。 列車の中の製品の積込み方を改善する、あるいは固定方法を変更するなどの工夫が必要。

リスク発見

2:船への積込み作業

走行スピードのわずかな違いで傷がつく!!

自動車を船に積み込む時、天井に傷がつくことがあった。よく調べてみると、あるスピード以上で船に乗り込もうとすると、自動車がハネて天井にぶつかるのだ。
絶対にぶつからないスピードを計算し、速度制限を徹底すれば、間違いなく傷はつかなくなる。

SAFE

3:船のレイアウト

ひとまず安心!!
搬入・搬出にロスの少ない形

自動車専用船の中の自動車を並べるカーデッキは 広くかつ整然としていた。搬入・搬出にもロスのないレイアウトであり、他の荷物が自動車に倒れてきたり、火災の原因となる危険物なども置かれていなかった。

リスク発見

4:天候の変化によるリスクの変動

ラップガードに小石が…

自動車は裸のまま輸送される。雨が降った時の酸性雨対策としてラップガードを貼る。最新の技術が詰まった貨物ではあるが、最も原始的な手法で輸送されるのである。唯一の防御が、ボンネットなどの車体に貼られるラップガード。酸性雨や小さな擦り傷防止に効果がある。ところが、風でラップガードが剥がれたところに小石が飛び込んで傷をつける場合があることを発見。
ラップガードの素材、あるいはガードの仕方の改善が必要。事故はささいなことから起こる。貨物保険のプロだからこそ拾いあげることができたリスクだ。

リスク発見

5:船員の服装

時計や指輪が車体を傷める!!

自動車のボディに、ほとんど目立たないが、小さな引っかき傷がついていた。よく見るとテキパキと働く船員たちは、みな腕時計や指輪をしたまま作業をしている。知らないうちに、時計や指輪でボディを傷つけていたらしい。
そこで作業時の服装を見直すことに。腕時計や指輪は作業時には取りはずす。作業服はジッパーなどの金属部分が表面に現われないオーバーオールを採用してもらった。完璧な形で商品を届けるためには、小さな傷も見逃してはならないのだ。

リスク発見

6:運送業者

プロの運送業者にもケアレス・ミスは起こる

プロの運送業者にもケアレス・ミスは起こる 貨物の輸送は通常プロの運送業者に依頼する。しかし、プロの運送業者であっても、実際の輸送に携わるドライバーがスピード制限を守らずに事故を起こしたり、荷扱い時に大切な貨物に傷をつけたりというケアレス・ミスが起こる。
大事なことは、運送業者が実際に運送に携わる第一線の社員に事故防止意識を徹底させること。荷主からは、運送業者にこの旨繰返し要請し、実践し、効果をあげている業者に運送を任せるといった対応策が必要。

SAFE

7:喫煙所

ひとまず安心!!喫煙管理の徹底が事故を防ぐ

喫煙所がきちんと設けられていたため、作業中に喫煙する者はいなかった。船の火災を防ぐためにも、また、吸殻や灰で自動車のボディを傷めないためにも、喫煙管理の徹底は大切なこと。自動車の近くや、船の至るところに吸殻が落ちている場合は、要注意だ。

04
Z社が訴えられた!!
トレーシング・サーベイで、リスクの優先順位をつけ、改善方法とそれに合わせた保険プログラムを提案できた2人。ほっとひと息ついていたところに、アメリカからEメールが届いた。
岡崎
「Z社がフロリダ州でPL訴訟を受けたらしい」
小野
「え? またですか? ここのところ訴訟件数が急増してますね」
岡崎
「PLは一筋縄ではいかないんだよ。特に、アメリカの場合はな」
小野
陪審員制度だと、どうしてもメーカーは弱くなりますよね。でも、このままでは、Z社の信用問題にも発展しかねません。PL事故をなくすために何か手を打たないといけませんね」
岡崎
「そうだな。まずは、フロリダに飛んで、Z社のPLクレームをすべて洗い出してみてくれ。解決の糸口が見つかるかもしれない」
小野
「はい!!」

05
PLは『逃げずに戦う』姿勢が大切
フロリダに飛んだ小野は、過去数年間のすべてのPL訴訟を調べあげた。その結果を岡崎先輩に電話で報告している。
小野
「TMCS(*)のPLクレーム部隊にも協力してもらって、ここ数年のPLクレームの発生状況を洗い出してみました」
岡崎
「どうだった?」
小野
「いろいろな事実がわかりました。同じ弁護士が何度も出てきて、似たような訴訟を何件も起こしています」
岡崎
「PL訴訟は、逃げの姿勢を見せたらダメなんだ。誠意をもってきちんと戦う姿勢で臨まないと『この企業は容易に金を払う』と見られて弁護士のターゲットにされてしまうからな」
小野
「弁護士は成功報酬ですからね。勝てるとみたら訴訟を起こして徹底的に叩いてくるわけですね」
岡崎
「それにしっかりとした対応をしないと、懲罰的賠償責任を問われる可能性もあるからね」
小野
「Z社のリスクマネージャーにコンタクトをとってみます。さらに最近の訴訟内容を分析した上でTMCSの協力も得て今後の訴訟対応についての方針を立てます」

(*)TM Claims Service,Inc:東京海上グループの米州Liability訴訟対応の専門会社

06
アメリカで話題のEPLI
アメリカから帰国した小野は、PLだけでなく、雇用関係の保険のテーマを持ってきた。
小野
「アメリカではEPLIが話題になっているんです。EPLIについても日本企業の米国法人へ提案ができるかもしれませんね」
岡崎
「雇用慣習に関する保険だね。セクハラや不当解雇など、雇用関連問題は権利の国アメリカではクリティカルな問題だからな」
小野
「問題が発生したときの法務対応も含めたトータルパッケージでEPLIを提案することってできませんか?」
岡崎
「そうだね。日本企業では雇用慣習について十分なノウハウの蓄積がないから、単に保険カバーを提供するだけではなく、法務対応についてのアドバイスも必要だな」

07
エリア特性の理解が、営業戦略につながる
Z社を通じ、世界各国の問題点に触れた新人・小野。帰国後、彼女の頑張りを労い、岡崎がビールをごちそうすることになった。
小野
「Z社だけの担当とは言え、ワールドワイドに情報を集めないと、この仕事は成り立たないんですね」
岡崎
「そうだね。特に世界の各エリア毎にリスク特性が違うからね。Z社のようなグローバル企業を担当すると全世界のリスク特性を理解しておかないと、海外進出のフォローどころか、クライアントに大損失を与えてしまうことになりかねない」
小野
「アメリカではPL対応をしっかりすることですね。PLリスクを考えないで車を売ると大変なことになる……」
岡崎
「PLリスクはアメリカだけではなく英国をはじめとする欧州での対応も重要だな。これからは南米やアジアなども賠償水準が上がることが予想されているからワールドワイドなPL対応が必要となってくるだろうね」
小野
「現時点においてアジアでは賠償責任対応よりも火災保険などの管財物件のリスクヘッジが優先課題だと思いますが」
岡崎
「そうだね。アジアでは防災基準や管理体制が十分でない場合が多く、しっかりと防災サーベイをかけておかないと漏電などによる火災の発生も多いね」
小野
「南米は?」
岡崎
「欧米やアジアに比べると日系企業の進出件数はまだ少ないけど、ブラジルに生産拠点をおく自動車メーカーも増えてきているし、これからは注目しておく必要があるね。また、ブラジルなどは広大な国土があるにもかかわらず輸送インフラが未整備なので、物流リスクの問題もあり、我々の物流安全サービスが役立つだろうね」
小野
「私、ダイミックな仕事してるんだなあ」
岡崎
「当たり前だ。これからもスリリングな仕事が入ってくるぞ。気を引き締めろ」
小野
「ハイ!!」

08
エンディング

小野は再び、アメリカに行くことになった。Z社が、某アメリカ企業P社と資本提携を結ぶことになったのだ。

岡崎
「P社の保険プログラムを調査してきてくれ」
小野
「はい」
岡崎
「P社との直接コンタクトは難しいかもしれないが、当社もP社のワールドワイド保険プログラムに一部参加しているから、ブローカーやZ社のリスクマネージャーから情報を集めてきてもらいたい」
小野
「わかりました」
岡崎
「もう、アメリカの実情はわかっているだろう。お前なら大丈夫だ。広く深い情報を集めてきてくれ」
小野
「わかっています。任せておいてください」

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